落葉して昔むかしのトースター  大木あまり

落葉が降る、冬のはじめ。もう古くなったトースターから、チン、と出てくるパンも、ところどころちょっと焦げ気味で、なんだか落葉みたい。冬は、未来が感じにくい季節だからか、自然と意識が過去へ向く。トースターもまた、「昔むかしの」という語りはじめが似合うほどに、懐かしい家電となった。チン。多分、あの音がいいのだ。郷愁を誘うし、あれが鳴ったとき、何かにひとつ、区切りがついて、世界が生まれ直した感じがする。

「俳句あるふぁ」2017年12月・1月号(毎日新聞出版)より。創刊25周年記念特別号。