老鹿やまなこに夜の鳥が降る  対馬康子

老鹿「や」の切れは、強調の意。このまなこはその老鹿のものだろう。
老いた鹿が、夜、ただ鳥の降下を見つめている。夜行性の鳥なら、夜鷹やコノハズクなどかもしれないが、あまり特定せず読みたい。眼にうつる幻のように、ある影が鳥のかたちをして降る。鹿といえば、秋に恋をする切ない季語。その鹿が老いている。これまでの恋が、心の底に静かに沈静してゆく。

「俳句あるふぁ」2017年12月・1月号(毎日新聞出版)より。創刊25周年記念特別号。