暗い眼窩から放たれた、闇の匂いの黒揚羽。
今、黒揚羽が眼前に忽然と現れた瞬時の感覚を、眼窩から飛び出てきたという奇想が支える。
私たちはふだん、目にするあれやこれやが、もともとこの世界にずっと(目にしていない間も)並行して存在すると信じているが、鳥が欲しいと思ったら鳥が生まれ、山があればと思ったら山がごりっとそびえて、そんなふうに、私の希求に合わせて、世界は刻々とカスタマイズされているのかもしれない。ひとたび生まれた黒揚羽は、青空へと放たれ、私が世界へ拡散されてゆく。
「小熊座」2017年11月号より。