凍鶴の啼いて世界の生き返る 敷島燈

凍ったように動かなかった凍鶴が、一声、鋭く啼いた。その声によって、仮死状態だった世界もまた、ガバッと息を吹き返したのだ。正岡子規の〈柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺〉のように、ひとつのアクションによって、世界の起動スイッチが押され、止まっていた何かが動き出す。ここでもうひとつ重要なのは、世界が仮死状態にあった、ということ。この仮死は、冬の寒さがもたらす静けさを意味するだけではなく、自分にとって、この世界に住む人にとって、世界が停滞して輝きを失っている、ということをにおわせる。凍鶴によって生き返った世界は、やはり生き難い場所であることにかわりはないけれど、でも、裸木の梢の光や、空の雲の輪郭などの輝きが、ちゃんと確かめられる世界のはずだ。

金沢大学俳句会「凪」創刊号(2017年12月)より。