雪を食ふゆうべの妻の物語  島田牙城

句集『誤植』(邑書林 2011年)より。

大人になってから、雪を食べることはそうなくなった。小さい頃は、怒られながらも、少し埃の味のする雪をよく食べたものだと思う。妻というからには、大人なのだから、雪を食べるのはよく言えば無邪気だし、言ってしまえば少し変わっている。けれども一番違和感を感じる対象は、それを冷静に見ている夫だろう。
「ゆうべの」としていることから、これは翌日になって、妻の行動を振り返っているのだとわかる。「物語」としていることから、こういった不思議行動が一度ではないことがうかがえる。妻の不思議行動は物語のように増えていく。夫はそれを冷静に見て、愛し、人へと語るのだ。