遠き木の鴉を放つ夕立かな  岸本尚毅

どこか高い場所の屋内で見ているのだろう。夕立の最中に顔をあげて遠くを見るということはあまりない。夕立が降り始めたことを他人事のように眺めていたら、遠くの木から鴉が飛び立った。まるでそれまでその木に捕らわれていたかのように、夕立が鴉を自由にしたように思える。雨はそんなに続かないはずだから、木で休んでいればいいのに、心配事でもあるのだろうかとぼんやり考えながら、観察しているが、やっぱり他人事だからそこに感傷的な感情は存在しない。

句集『感謝』(ふらんす堂 2009年)より。