いくたびも虹を仰ぎし背広かな  涼野海音

虹を仰ぐ背広というモチーフが好きだ。背広はサラリーマンの喩。日常に縛られてせこせこと働く中で、虹の出現が忘れていた何かを思い出させてくれたかのようだ。でも「いくたびも」は緩い表現。これまでに何度も背広姿で虹を見上げてきたのか、今日この瞬間の虹を何度も仰いでいるのか、ちょっと分かりにくいので。

「火星」2013年7月号より。同時発表作「台風の近づく夜のヘリポート」、高みから台風前夜の街を見下ろしている視点が妙に心地よい。