七夕や男の髪も漆黒に  中村草田男

「七夕や髪ぬれしまま人に逢ふ」はあまりに有名な橋本多佳子の代表句。髪は女性性の象徴、濡れていればなお艶っぽい。濡れ髪のままで逢う相手は、七夕だから絶対に恋人だ。相手の男はさぞハッとしただろう。
草田男の句は、黒髪といえば女性という従来の詩歌のイメージを踏まえたうえで「男の髪も漆黒に」と詠み換えた。髪のみならず、肌や筋肉も若々しい、いい男だ。今、「ふらんす堂通信」で「女の俳句」(女がモチーフとして詠まれた俳句について書く)を連載しているのだが、いい男が詠まれた俳句を集めるのも、盛り上がるかもしれない。

平井照敏編『新歳時記(秋)』(河出文庫)より。