どの木にも隣りて蝉の木なりけり
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学類の新歓委員が作る新入生向けパンフレットというのがある。大学生活を学生たちが紹介する文集だが、その中に学生の一日を描いた1頁漫画を掲載するという。漫画化される4人のうちの1人に選んだからとりあえず取材させてほしい、と言われたのは昨年末のことだったか。
(リア充枠だろうか)
(『となりの怪物くん』っぽい画風がいいな……)
まいあさ眠気覚ましにラジオ体操をしていること、趣味で植物園に通っていること、共用浴場の一番風呂を日課にしていること、俳句を書いていること、だいたいそのような話をした。担当してくれたナカザワくんは、しばらく経ってから出来上がった漫画を見せてくれた。びっくりした。おれだった。そこに描かれていたのは松坂桃李にクリソツのおれの姿であった。
(やっぱりおれは絵になる)
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その漫画は新入生に読まれたようだった。いそがしくて新歓には殆んど顔を出さなかったがたまに行くと「ラジオ体操の人」「俳句の人」「風呂の人」などと呼ばれた。
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ある日風呂を出ると出口で知らない女の子に声を掛けられた。
「パンフ読みました」
それか。
それか、と思ったのはいいがおれは初対面の人と話すのがたいへん苦手であった。相手はよく喋る人だった。テンパったおれは「ペンより重いものは持てないんです」という謎のキャラ設定を口走っていた。テンパるとキャラ設定を増やしてしまうのはおれの悪癖であった。