野の花を嗅げば草の香夏はじめ  神野紗希

「野の花」にふと嗅ぎとった「草の香」。そのささやかな発見が素直に綴られている。「花」に「草」の香りがしたと、言葉の上での楽しい意外性もある。

「夏はじめ」という清々しい季節感を背景にした草の香りが、思わずこちらの鼻にも通ってきそうだ。またそれだけでなく「草の香」という表現には、視覚的な効果もある。夏を迎えて、勢いよく丈を伸ばし始めた青い草原の映像が、さっと読み手の眼前に広がるのである。

 どこか素朴さのある上五中七を、ごくしぜんにさらりと受けた「夏はじめ」。季語の斡旋の仕方としては地味だけれども、「夏はじめ」の季語の持ち味は存分に活かされている。