2017年10月28日

菊の日や砂いくばくの魚の市

『俳句研究』一九六〇年六月号は「九州・沖縄 その風土と俳句」という特集を組んでいる。当時の新聞俳壇の選者をしていた矢野野暮が「沖縄の風土と俳句」を寄稿している。

 生活を詠い、風土を詠む、現代俳句の思潮は、こんな風土の沖縄だけにぐんぐん滲透していつた。この島の綜合結社的存在である沖縄俳句会は、ついにこの二月創立十週年を祝つた。その発表される作品も多彩だ。

   登り窯屋根の炎陽は二三ン月である 中島焦園
   石塀に夜の視野断たれ冴え返る   安島涼人

 また、本誌の最近号の雑詠に発表されたものから、

   秋旱眼をみひらいて石を負う 仲村盛宜
   屋根赤き冬蝶漁家へ翔る時 喜屋武英夫

 当地で発行されている二大新聞、沖縄タイムス、琉球新報の二紙にもそれぞれ俳壇欄が設けられ、四年近くも続いている。戦前俳壇らしいものはなく、わずかに本土から来た俳人が沖縄を詠つたに過ぎなかつたこの土地に、いままでは投句者数三千人を数えることが出来るだろう。先ごろ式場隆三郎博士と共に来た山下清は「沖縄はヤッパリ外国かな、ヤツパリ」と言つていたが、ドルを通貨とはしていても、沖縄人のなかには日本人の血が流れているのだろう。

   斑猫や島には島の詩の系譜 野暮

あれは、日本人への帰化意識を背景とした「現代俳句の思潮」の逆輸入だったのか。