2014年9月29日

いつのまに星のひとつぶ破蓮

沈黙に皆まどろんでいる認知症病棟。私はある老女に挨拶をする。彼女は優しく挨拶を返す。
しばらく話をしている。5分ほど経つと、彼女はいつの間にか顔を真っ赤にして、怒鳴りはじめる。「お前は出て行け!」と罵倒され、私は混乱する。
私が席を離れると、彼女は数分でまた穏やかな表情に。
いつ挨拶をしても、最初は優しく、その数分後の未来には怒りはじめる老女。私は接触を諦め、遠くに座るようになった。
ある日の昼下がり、彼女が突然歌った。
「月が出た出た、月が出た、よいよい」
一節だけ歌い、彼女は沈黙の世界に戻っていった。私の胸は大きな月と感動で満たされていた。
未来とは何だろう。