2016年10月30日

手に檸檬始発のバスのゆっくりと

学校でアルバイトは禁止されていたから、私とエリは知合いに会わないようにスーパーの青果コーナーのバックヤードでバイトをすることにした。茄子や芋や林檎やミカンを袋詰めにしたり、傷んでいる物は脇に避けたりした。時々余り傷んでいないものはおやつに他のみんなと食べたりもした。作業のひとつにパイナップルを切る作業があった。パイナップルの上と下を切り落とし、専用の筒状の刃のついた道具で真ん中の芯を抜くという作業だ。捨ててしまうパイナップルの芯を私たちは時々もらって食事代わりに一・二本かじったりした。酸っぱくて口の中が痛くなって、それでも硬いからなかなか無くならない。そうやって食べていたある日、エリが「あんべわりぃ」と言い出した。「なした?」「胃がいでぇ」すると一緒に休憩していたベテランのおばちゃんが「なんだりかんだり食うすけぇ。空腹でパインば食べ過ぎれば腹壊すすけ、あったかいお茶ッコ飲みなせぇ」と言って大きな湯呑に並々とお茶を注いでくれた。「すいません」エリはそう言うと一気にお茶を飲みほした。

[あんべわりい]具合が悪い
[なした?]どうしたの?
[なんだりかんだり]なんでもかんでも
[お茶ッコ]愛着のあるものに「ッコ」を付ける。[飴ッコ]とか[犬ッコ]とか