這ふ死体につまづいてゐる死体かな
手がくすぐったくて目が覚めた。菜々子ちゃんがわたしの爪を触ってた。
「おねえちゃん、つめ、本物?」
「うーんとね、本物の爪の上に落ちにくいマニキュアみたいなの塗ってあるの」
「この絵なに? 蜘蛛の巣? かわいくないよ。お花とかリボンにしたらいいのに」
一万円近くかかったネイルなんだけどな。こどもは手厳しい。
「そうね、つぎはお花にしようかなぁ……」
菜々子ちゃんの寝癖のついたおかっぱ頭を撫でる。あったかくて、脂でぺたぺたしてる。
「やあ、あんた、しゃべれるのか」
村田さんに言われて気づいた。声が、出るようになってた。
わたしたちがいるのは、三階建てのテナントビルの三階、窓の大きなカフェだ。道路の様子がよく見える。
歩く死体は、昨日よりも増えたように思える。多いのは中高年の死体。観光客だったんだろう。首からカメラをかけたままの女性、登山の格好をしている男性。一時間に5〜6体。多いときで10体ほど。身体が部分的に欠損したり腐敗して骨が見える死体もいれば、普通の人間と区別がつかないような死体もいた。みんな背中を丸め、手を胴体よりやや前に出し、すり足でゆっくりと通り過ぎていく。
昼過ぎから曇って、夕方から降り始めた。死体たちは雨の中を、ぞろり、ぞろりと動き続けた。