2012年1月30日

金の卵の殻に三・一一後の春塵

土屋隆夫は、読んだら面白いのだろうと思いつつ、何となく疎遠なままで来てしまったが、最近長篇と短篇集を何冊か読んで、疎遠の理由を思い出した。
短篇は救われない話が多いのだ。何かのアンソロジーでその一つを読み、以後敬遠していたのだろう。

長篇の方は千種検事シリーズと呼ばれる名品3冊があって『影の告発』はその一つ。
アリバイ崩しの名作として知られる。
冒頭がきらびやかなデパートを修学旅行の子供たちが見学するシーンで、読むとどうしても《遠足の列大丸の中とおる   田川飛旅子》を連想する。
デパートが出来始めで、物珍しい時代だったのだ。デパート側としてもこの子供たちがやがて金の卵として集団就職してくるので無下にはできない。
今はデパートなど大都市にしか残っていないだろうから、逆の意味で珍しい。

(その後『針の誘い』も読んだ。千種検事とその手足となって働く野本刑事の厚い信頼が、短いやり取りから鮮やかに浮かび上がるので、この辺ちょっとオヤジ好きの腐女子にも読ませてみたい。)


*土屋隆夫『影の告発』角川文庫・1977年