猪も派遣社員も濡れて生まれる
実家の隣に祖母が住んでいた。
両親は共働きだったので、小学校の頃は家に帰っても誰もおらず、
祖母の家に行くと、祖母はよくサツマイモのフライを作ってくれた。
と書くと、非常に温和で優しい祖母を想像されるかも知れないが、
どちらかというとさばさばとした無情な感じのする人だった。
「猪」というと、祖母がたびたび作ってくれた煮込み料理を思い出す。
猪の肉に大根、ごぼう、葱を加えて、醤油と砂糖で甘辛く煮たシンプルな料理。
猪の時と牛肉の時がだいたい半々。
猪の肉は当たり外れが激しいので、外れの時は平らげるのが少しつらかった。
ある日の学校の帰り道、道の真ん中で地元の猟師たちが猪の解体をしていたことがあった。
通り過ぎようとすると呼び止められ、
「ばあちゃんに渡してくれや」とビニール袋に入った地の滴る猪をどさりと手渡された。
生温かい「生」の感触。今も手のあたりに重く残っている。
そして、あの頃は気付かなかったが、僕は祖母に愛されていたのだと思う。
今思い返せば、思い出の風景の中に祖母なりの愛情表現がたくさんあった。
しかし、時は流れた。
その愛情に気付いた時にはもう何もかもが手遅れになってしまっていた。
以下、猪の登場する句をいくつか。
猪吊れば夜風川風吹きさらし 石田波郷
星仰ぐ皆猪食ひし息吐きて 茨木和生
猪のあはれ飼はれて老ゆるとよ 西嶋あさ子
猪の背骨と平行な棒は淋しい 四ッ谷龍