永田和宏歌集『後の日々』(角川書店、2007)
今日は熱が出て会社を休んでしまいました、最近は少し頑張るともうなんだか、パタンと倒れてしまいます、あぁ情けない、この頃は酒も弱くなったし、あぁ嫌だなぁ・・・。
弱っていたり、病気になると思い出す事があります、東京に来たばっかりの頃、銀座の高級ブティックで警備員のアルバイトをしていて(お金が週払いでもらえるから)、白い手袋をしてドアマンのような事もしていました。お客が来たらドアを開けて、「いらっしゃいませ」、帰る時は「ありがとうございました」、ほとんど頭を使わない仕事で、ずっと俳句の事を考えていられるので僕には向いていました。
一日一回大きな袋を引き摺っているホームレスのおじさんが来て、僕のいるドアの方を向き
「神様、今日も一日ありがとうございます」
と言って、深々とお辞儀をするのです。
僕は、この国は実はとっくに駄目なんじゃないか、全部嘘なんじゃないか、と悩み、毎日このホームレスを見なければならないのが辛くて、夜には強いお酒を飲む日々が続きました、23歳だったなぁ・・・。
今でも寝込むとあの日々を思いだします
元気がないときに読みたい歌集があります、永田和宏歌集『後の日々』(角川書店2007、10)、心がぎすぎすしている時に、この歌集を読めば、少しだけ優しくなれる気がします、僕が持っている数少ない歌集、今回はこれをみなさんに紹介させていただきます。
それじゃ読んでいきましょー
胴体のこんなに長い影が行く月曜の朝のごみ置き場まで
なんとも言えないほどに日常
平然と振る舞うほかはあらざるをその平然をひとは悲しむ
当事者にしかわからない事がたくさんあるでしょうね
アメンボを押し上げて水の膨らめるきょうはあなたにやさしかったか
アメンボからやさしかったかまで流れるように優しい歌
猫のまま死んでゆくのか猫として生れたことが嘘のようなおまえ
そんな事言ってくれる家に飼われたい、あ、僕猫じゃなかった麒麟だった、三十近い人間だった・・
ゴム紐に笊を吊るして勘定の早かりしかな魚屋でも八百屋でも
ヘイらっしゃい系な
なんびとも見たることなき不可思議の麒麟というが林立をする
うふふ
正露丸にがき三粒を呑みくだし腹をなだむる春の日の暮
そう、三粒なんですよ、飲み過ぎた次の日はだいたい腹の調子が悪い
やりなおしのきかざる生をよしとして昼を飲むなり飯屋の二階
良いなぁ、「飯屋」のなんてうまそうな事、「美味しそう」じゃなくて「うまそう」、この歌を見つけて僕はこの歌集を買いに行きました
こらえいし笑いがいっきに弾けてより娘の笑いとまらざりけり
この幸福感は「娘」だからですかね、涙を流してお腹を押さえて笑う感じが出てます
教授の目を盗んで映画に逃げていしあの頃 何かがまだありそうで
今回読み返してハッとした歌、まだ28なのに、いつから僕は「何かがまだありそうで」と思わなくなったんだろう・・・、あるある、きっとまだ色々ある
亀はみなむこう向きなり老いるのもいいものだぜとうつらうつら
これもまた大好きな歌、この歌を知ってからは長生きも良いなぁと思えるようになりました
ひそひそと烏に知られぬように出すゴミ収集日の黒いビニール
可笑しいですね、なんだか烏のが強いようで、いやでも烏ってデカイし怖いんだよなぁ・・・
腹痛は有無を言わせずおろおろと途中下車してトイレを探す
僕は酒呑みなので、鞄にいつも正露丸が入っています、無いと生活できない・・・
君づけでみずからを呼ぶ二歳児がその父親を呼び捨てに呼ぶ
永田さんの歌を読んでいると、家族って良いなぁと憧れます、六畳の薄暗い部屋で横になりながら、パラパラと『後の日々』を読み返す事が多いのは、きっと羨ましいんでしょうね。
昼酒を飲まんと入りし飯屋にて二階より見る川に降る雨
『後の日々』を愛読するようになってから、飯屋の二階で一人お酒を飲む事が増えました、楽しいんですよ。雨とかね、あー、今日のは細長いなぁとか思いながら見るのが。
赤い頭の丸いポストに会いたいと徐々に危うし疲れているぞ
休んでください
がんばっていたねなんて不意に言うからたまごごはんに落ちているなみだ
こういう優しい男の涙もまた美しいと思う
誰かそのひそひそ笑いをやめさせよ月がどこまでもついて来るなり
満月がにゅーっと追いかけてくるようで、楽しいような、少し不気味なような
ぺたんぺたんと足音させてついてくる もうついて来るなって月よ
・・・足あるの?いやぁ
ぺたんぺたんぺたぺたぺたんぺたぺたぺたんぺ
↑
嫌ぁ
悶えるように笑いつづける もう何年もそんなあなたと暮らしてきたが
良いなぁ、愛だなぁ
どうでしょうか?僕は数えるほどしか歌集を持っていませんが、『後の日々』は何度も読み返しているお気に入りです、ここまで読んでくださったみなさん、少し優しい気持ちになれましたか?