神野 クリスマスを詠んだ俳句って、ふたつの傾向があるな、と思います。ひとつは、クリスマス「なのに」俳句。クリスマス「なのに」ひとり、とか、クリスマス「なのに」ワンタンすすってる、とか。「へろへろとワンタンすするクリスマス」(秋元不死男)。もうひとつは、そんなにストレートでいいの?っていうくらい、クリスマスを寿いでる句。後者は、クリスマスだから許される、無礼講的な感じもある。
越智 後者の例でいくと、紗希さんの「どこへ隠そうクリスマスプレゼント」とかもそうっすよね!楽しい感じ。
江渡 その句、隠す側だからいいよね。こんなこと考える立場になったなんて、自分、大人になったなあ、っていう。
神野 つくったときは、こんなんでいいんかな?って自分でも思った。そのまんますぎて。
越智 危うさはありますけどね。この句を読むと、「いつ渡そバレンタインのチョコレート」(柴田白葉女)、あれを思い出しますね。
神野 ほんとだね。ま、クリスマスに免じて許してもらおうかな。二人のつくったクリスマスの俳句って、どんなのがある?
江渡 えー、覚えてないなあ…実はあんまりつくってないかも。
越智 うわー、僕も覚えてない…
神野 そうなんだ!私、毎年、クリスマスの句つくってるよ。「犬の脚人間の脚クリスマス」「傾いて掛かる巣箱やクリスマス」「クリスマス本の倒れる音がして」、その年々に。お祭り好きなのかな(笑)。クリスマスっていうと、スピカでこういう企画したくなるくらい、気分が盛り上がっちゃうの。
越智 息子に生まれたかった!
江渡 今月のスピカに、クリスマスの句を出したんだけど…ちょっと恥ずかしいな。
神野 なになに?エッチなの?
江渡 いや、そういう恥ずかしさじゃない(笑)。
神野 ああ、これね。「クリスマスキャロル微笑みと少し嘘」。たしかに、ちょっと照れくさい感じがあるね(笑)。なんとなく、まだ駆け引きをしているオフィスラブって感じ?クリスマスキャロルの句って、そういえば、あんまり記憶にないなあ。
江渡 聖夜って言葉、いいよね。
越智 僕も好きです。「聖夜かな」で、なんか作っちゃいたいって思わせられる。「クリスマス」って言葉、カタカナだからかな、軽いじゃないですか。そこが、僕は使いにくい。
神野 ああ、そうなんだ。私はむしろ、そのライトさが好きよ。
江渡 そういえばね、こないだ、優夢くんと本屋さんにいって、日記売場に行ったの。で、私がね、日記をひとつとって「自由の女神ぽく抱く」って言いながら、ポーズとるわけ(*「日記買い自由の女神ぽく抱く」神野紗希)。そしたら、優夢くんが、「青に触れ、紫に触れ」って言いながら、その色の日記を指さす(*「青に触れ紫に触れ日記買ふ」)。
越智 あははは!
神野 ありがとう(照)。
越智 そういえば、スピカの11月「つくる」で、一句クリスマスの句つくってました。「カップ置いて机は平らクリスマス」。
神野 おお。パーティーしてる感じだね。「平ら」なところに目が行くのが、クリスマスかも。「海の半球」じゃないけど、地球サイズの季語だから、逆に「平ら」ってのが気になってくる感じがある。引力を思うからかな。
第三回 黒人の掌の桃色にクリスマス 西東三鬼(神野紗希推薦)
神野 黒人のひとの掌って、いわれてみれば、桃色だよね。私たち黄色人種は、そんなに、裏表でてのひらの色って変わらないけどさ、この桃色にあたたかさを感じる。そこがクリスマスなんだなあ、って。
江渡 黒人の肌の色って言われると、当時の差別とか、時代背景とか考えちゃって、どきっとするアイテムだなって思ってるんだけど、クリスマスを取り合わせたところに、プラスの感情が出てくるよね。
越智 今、僕たちがこの句を読んでる感じと、当時の人たちが受けた衝撃とは、また違うのかなって。
神野 クリスマスは西洋のものってイメージあるじゃない。そのあと、日本のお正月が来るから、なおさらかな。秋元不死男が「へろへろとワンタンすするクリスマス」って詠んだのは、西洋のクリスマスに、東洋のワンタンをあててきたっていう面白さ。「へろへろ」も、クリスマス「なのに」ダメな俺、っていう演出。ワンタンの句も大好きなんだけどね、構造を指摘すれば、そんなふうに分かりやすくできてる。でも、三鬼のこの句は、ひねってるわけでもないのに、唯一無二なところに到達してるのがすごいんだよね。クリスマスに、異国を感じながら、しかも新鮮っていう。
江渡 うんうん。
神野 てのひらって、いろんなことをするものじゃない。プレゼントあげたり、お料理作ったり、リース飾ったり、カードを書いたり、握手したり。だから、てのひら。
越智 ささやかな気づき、ですよね。この句、動詞をぜんぜん使ってないじゃないですか。でも、動きが見えてくる。それも「てのひら」だからですよね。そこが面白い。
神野 この句の魅力は、色彩におうところが多いんじゃないかな。実際に見たときの驚き、イメージと違ってた驚きを、色彩で詠んだ。「白牡丹といふといへども紅ほのか」(高浜虚子)みたいなね。黒人っていうけど、てのひらはももいろだっていう。それを知った嬉しさを共有しちゃうな。
(次回は、24日・クリスマスイブ。クリスマスの句をたくさん読みます)