【6】白鳥座みつあみを賭けてもいいよ  神野紗希

夏の星空を眺める特等席は、タクシー会社の横にある鉄階段。僕だけの特等席ではないのだけれど、その建物の二階には学習塾があり、僕より三十分遅く講習が終わる姉を待っている間、星空を眺めているのだ。
事務のお姉さんは、「中で待っていていいのに」と言ってくれるけど、自習室は受験生の人達がぴりぴり勉強しているし、なにより髭の先生に「なんだ、まだいたのか」って言われるのが嫌なんだ。それに、「暇そうだな、宿題増やしてやるよ」なんて、余計なこともしてくれる。いまどきの小学生をなめるな。いくつ習い事してると思ってるんだよ。今の宿題で精一杯だよ。
と、いうわけで、車でお母さんが迎えに来てくれるまで、こうやってぼーっとしている。
星を見ていると、色々な物語が浮かんできて楽しい。親は僕が物語をつくるのをあまりよく思ってないみたいだから、こっそり日記帳に描きためているのだ。星座の物語も考えるのが好きだし、その星に何が住んでいるのかを想像するのも好きだ。三十分はあっと言う間で、足りない日もいっぱいある。
あぁ、でも今日は、星のことよりももっと考えたいことがあったのだ。クラスメイトの静香ちゃんが不思議なことを言っていたんだよね。静香ちゃんの髪の毛はうんと長くてクラス一番。彼女はそれをいつもおさげにしているんだけれど、今日静香ちゃんの友達の優ちゃんが「乾かすの大変そう」って言ったら、静香ちゃんは「憧れてることがあって切れないの」って答えてた。静香ちゃんはクラスの人気者だから、みんなそれが何なのか、それぞれに話しながらも、耳をそっちに向けていたんだよね。そしたら、彼女はこう言うんだ。
「「天空の城ラピュタ」の中で、ムスカがシータの髪を撃ち落とすシーンがあって、それがとても印象に残っているの」
みんな一瞬動きが止まったけど、優ちゃんがすかさず「・・・だから?」ってきくから続きを聞こうとしたんだけど、静香ちゃんは、「えー?」と言って笑って話を変えちゃったんだ。
だから、僕は今日、彼女の言葉の意味を考えなくちゃいけないんだ。