2015年7月24日

咲いて見ていまに忘るゝ暑さかな

おれのTwitterを見ているひとは知っているかも分からないが、おれはときどきTwitterに17音の文字列を投稿している。ときどき季語も入っているので俳句のように見えるが俳句ではない。せっかくできた句をやすやすとTwitterに流すものか。思いついたことがたまたま17音になったときにそれを書いているだけである(ただ便宜上、数えるときには「句」で数えている)。

署名もつけている。堀下翔ではない。翔子である。名字は堀下ではなく茨城。茨城翔子。17歳の女子高生でアラシック(嵐のファンのこと)である。彼氏はいる。おれのなかには桜庭ななみのほかにもこういうのが何人か住んでいる。

海の日の頭の中の水着ギャル   翔子

これは、今年の海の日のもの。海の日ではあるが原稿がたまってしまって遊びに行くことができず、せいぜい海で黒ギャルに逆ナンされる妄想をして心を慰めているなさけなさをうたっている。「頭の中の」というと高屋窓秋の〈頭の中で白い夏野となつてゐる〉(『白い夏野』昭和11年)が思い出され、この砂浜もまた、白く輝いているのだろうな、という気になる。

夏の星あすはいいことたくさんある   翔子

友達とケンカしたときの句である。あした楽しい気分で目覚めたいな、と思った気持ちをそのまま書いた。夏の星とあるのはこれを書いたのが夜だったからである。似た句に、

しあわせの形はいくつ夏の星   翔子

というのもある。センチメンタルな気分で心底どうでもいいことに気を揉んでいたときの句である。これはTwitterに書いたあとサトアヤから「だめやろw」とリプライが来た。もしこれが俳句だったらダメであるが、これは俳句ではない。

たまに翔子の句についてあれはなんなんだと聞かれ、「ああすることによって僕は俳句とそうでないものを区別しているのサ」などと気取ったせりふを言うことがあるが、適当に言っただけである。そこまで偉くなった覚えはない。とりあえず思ったことがたまに17音になっているだけである。

それはもうすごいパンツや蝉時雨   翔子

この句の事情は、言えない。それはもうすごかったのである。

しゃっくりす止まった筈とおもいしが   翔子
減らされてゐる七月のシフトかな   翔子

どちらも、日常の些事を丁寧に掬い取った句。仮名遣いはノリで決める。

五月雨を集め一万ツイート目   翔子

これは、高2から始めたTwitterが累計1万ツイートになったときの句。芭蕉句の本歌取りなので当然「最上川」が想起される。タイムラインを川に例えて巧み。「一万ツイート」という膨大なツイートがなす川は、原句の「早し」と呼応している。梅雨時期の句なので「五月雨」も動かない。

正論を押し付けあって焼肉屋   翔子

サークルのカワマタ先輩が、おれともう一人の友人を連れ、なんと焼肉食べ放題をおごってくれたときの句である。「おれがおごってやるんだから何でもいうことを聞け」と、不条理な量の注文を繰り返したり、三人分頼んだデザートをぜんぶ一人で食べてしまったりしたのに対し、おれたちは「こんなに食べられるわけがない」「デザートも食べたい」と反論した。いま考えればどちらも正論というよりただのバカであるが、あのときは「正論を押し付けあって」いる気がした。

好きになる予感泰山木の花   翔子
抜け駆けは禁止泰山木の花   翔子

八音+「泰山木の花」メソッドというのを思いついて、何句か作った。翔子は女子高生なので、こういう恋愛の句がたくさんある。

女子高生の列筑波大の中とおる   翔子
ペンギンのおさんぽやわがこゝろの帆   翔子

といったパロディも翔子の好むところである。前者は〈遠足の列大丸の中とおる〉(田川飛旅子『花文字』昭和30年)、後者は〈炎天の遠き帆やわがこゝろの帆〉(山口誓子『遠星』昭和22年)が元ネタ。前者、筑波大は平日やたらと学校見学を受け入れていて、だだっぴろい校内のあちこちに制服の女子高生の姿が見えることしばしばである。このときばかりは自分が女子高生であることを忘れ、きらきらと輝く制服の一列を目で追ってしまう。後者は、一転、想像の句。〈炎天の遠き帆やわがこゝろの帆〉はリズムがいいなあなどと考えていたら、「遠き帆」のホで韻を踏むアイディアが浮かんで、そのあとすぐに「ペンギンのおさんぽ」が出てきた。もっと韻を踏まないと面白くないのだが、そこまで深追いしたところで何か得になるものでもない。

れなりんに呼ばれて参る花見かな   翔子
お花見をしにれなりんと熊谷へ   翔子
花よりもお団子よりもれなりんだ   翔子

れなりんとお花見に行ったときの句。れなりんと遊べてうれしいという気持ちがよく出ている。「花よりもお団子よりもれなりんだ」の「だ」の稚拙さがたまらない。「お団子」の「お」に滲む字数合わせ感もいい。なおこのとき、うかれて電車を間違え、集合時間に間に合わなかった〈れなりんと花見に行くも遅刻かな 〉というのも残している。

バレンタインデー貰ひきれないチョコのあり   翔子
大量のチョコがポストにバレンタインデー   翔子

2/14の句で「写生句」という前書きがついている。こういうことがあったのである。

CiNiiに本文のあり西行忌   翔子

これは2/16の句。日本文学の期末レポートを書いているときにできた。CiNiiはオンラインで学術論文の検索ができるサービス。書誌情報や所蔵図書館などが載っているが、たまに本文がネット上で読めるものがあるから手間が省ける。掲句、たまたま探していた平家物語の論文がネット上に上がっていたことを書いた。たまたま西行忌だったのでつけたが、あまりにも出来がいいので、学生の句会に出したら点が入ってしまうのではないかとすら思った。

こういうことばかりしている。