2012年12月20日

ほゝづゑの首ほどけゆく糸の食堂     SSTbot

SSTスクラップ「童話」後編

 子供たちが20人ほど集まってきたころでしょうか。いつの間にか鳥が、鏡のふちにとまっていました。
「鏡の前に立って、姿をうつしてごらん」
 鳥は言いました。
 うつろな子供たちは皆、礼儀正しく一列に並んで順番に鏡の前に立ち、自分の姿を鏡にうつしていきました。するとある子はスズメに、ある子はムクドリに、ある子は白鳥に姿を変え、次々に空へと飛び立っていくのでした。
 切り株に腰掛けていたこどもはいちばんうしろに並んでいました。とうとうあとひとりでこどもの番です。前にいた子は鳥ではなく、ヘリコプターになって勢いよく飛んでいきました。うつぶせのプロペラでいく夜の都市はさぞ気持ちよかろうと、こどもはうっとりしました。
 こどもが鏡の前に立ちました。鏡にうつるその姿は、風船になっていました。風が吹いて、風船は空へと舞い上がりました。油臭き市街の空に星がはりつく寒い夜のなか、こどもは風船になつてゐる間も目をつむり、うっとりとしているのでした。
 高く飛べば飛ぶほど、風はつよくなっていきました。こどもは風上にゐて目の玉の冷えてゐるのを感じました。そのとき、突風が吹きました。風船は勢いよく飛ばされ、先に飛んでいたヘリコプターのプロペラに引っ掛かりました。すると、風船が割れてひと気のある街にしぼみながら落ちていきました。割れた風船の中からはなにか星ほどにきらきらとした塵のようなものが降り注ぎ、その夜ひと晩中、街をまぶしいほどに照らしつづけていました。

 こどもはその日、ちっとも帰ってこないので、また晩ごはんを抜きにされてしまいました。

 それは、まちなかにこまかい塵の降るむかしむかしのできごとです。

うつぶせのプロペラでいく夜の都市     鴇田智哉
油臭き市街の空に星がはりつく
風船になつてゐる間も目をつむり
風上にゐて目の玉の冷えてゐる
風船が割れてひと気のある街に
まちなかにこまかい塵の降るむかし