雪の病棟イヤホンで見るテレビ   神野紗希

漫画『どんぐりの家』(山本おさむ)は聴覚に障がい(加えて別の障がい)を持った子どもたちの成長とそれを支援していく話。その中に、一人の少年が母親に雪が降っていることを知らせるシーンがある。母親が雪が降っていることに気づかなかったというと、その少年は「どうして耳が聞こえるのに、雪が降っているのが、分からないの。しんしんって鳴っているんでしょ」と返す。少年が読んでいた絵本には雪がしんしんと降っている、と書いてあった。だから少年は雪はしんしんと鳴るものだと思っていたのだ。
と、だいぶ枕が長引いた。実際、雪はしんしんとは鳴らないし、ましてやこんこんとも言わない。反対に雪は全ての音を奪うようにして降る。だから雪の日はしーんと静まりかえる。そこが家族のいる家ならば、静けさはなんてことない。しかし病棟である。ただでさえ静かな病棟が雪で覆われる。二重の遮り。
音が恋しくなる。しかしもう夜である。イヤホンなしでテレビを見ていると、看護師さんにぶちっと切られる。なので、イヤホンでテレビを見る。音がダイレクトに耳に届く。いつもよりはっきり聞こえるはずなのに、なんだか遠く感じるのは、こころに響く音ではないからだろう。

2013.12.1「なりたがる」