2015年7月31日

夏逝くと云ふ肉声であると云ふ

池を見ていたらおたまじゃくしがいた。ずいぶん太っているので生まれたてではないなと思った。週に一回くらい来ている植物園の池で、これまで姿が見えなかったから、いったいどこに隠れていたのか不思議だった。池にはミツガシワがびっしりと浮かんでいるのでそれで分からなかったのかもしれない。よく見わたすとあちこちにぼろぼろと泳いでいる。ずいぶん体が重そうなのにすばしっこいから可愛らしい。じきに足が出る。蛙になるのは秋になってからだろう。

去年もこの池でおたまじゃくしを見た。そのあとしばらく見ないなと思っていたら秋口にいきなり蛙になって現われた。一匹二匹ではなくて夏のおたまじゃくしが残らず大人になったような騒ぎだった。冷たそうな水をとびまわっては泥けむりに消えていった。やがてまた姿が見えなくなって植物園は冬になるのだった。

植物園は自宅から二分のところにあったし、学生証を見せればタダで入れた。ここに来ると草木や虫が見られるので暇ができるたびに来ていた。うかうかしているとたちまち過ぎてしまう季節がここに来れば分かった。

おたまじゃくしのいた池の横に鷺草が咲いていた。「サギソウ」と書かれたプレートを見てずっと楽しみにしていた。何日か来ないうちに細い茎の先に小さな花がいくつもついていた。ほんとうに鷺のかたちをしているのでときめいた。サギソウという響きもいい。サギクサじゃなくて、サギソウ。この真っ白で胸の薄い花は、いかにもソウって感じがする。

すこし歩いたところに半夏生がある。みごろは少し前に終わった。大きな葉の半分をくっきりとした白がくりぬいていたが、すっかり薄れて他愛のない見た目になった。いまはただばさばさと葉が重なって風に押されているだけだ。

あやめも杜若も終わってしまって、だんだん秋になる。秋には秋の花が咲く。年年歳歳、花相似たり。住み始めて二年目のこの町で、去年も見た花がまた咲いているのが、たまらなくうれしい。