2016年10月31日

一列に線路の町を秋の人

スミちゃんが転校することになった。お父さんが転勤するので一緒について行くことになったらしい。日曜日には東京に引っ越すという事だった。金曜日の放課後、お菓子とジュースでお別れ会をする事になった。クラスの皆でちょっとづつお金を出して小さなアルバムを買い、皆が写った写真を貼ってメッセージを書きこんでプレゼントすることして、お別れ会の最中にアルバムを回し順番にメッセージを書いていった。隣のミツコが「ペン貸して、ピンクの持ってらったべ」と言ってきた。私はペンケースから取って置きのピンクのボールペンを出してミツコに渡した。ミツコは何か書き始めたがすぐに「書がさんないよ」とペンを返してきた。私は体温計を振るように5回くらいペンを振ってミツコに「どんだべ」と渡した。「あ、書がさった」ミツコは嬉しそうにピンクのペンで何事か書き、アルバムとペンを送ってきた。私はペンケースからもっと取って置きの万年筆を取り出した。「あー、万年筆だ。えふりこぎだ」とミツコが言う。「うらやましいんだべ~」私は少しだけ大人びた気分になって、綺麗なブルーのインクで「スミちゃんへ」と書き始めた。

[持ってらったべ]持ってたでしょ
[書がさんない]書けない。自分のせいではなく道具のせい等でうまく出来ない時に「・・・さんない」という。[やらさんない(やれない・出来ない)][送らさんない(送れない)]など。
[書がさった]書けた。自分のせいではなく道具のせい等でうまく出来た時に「・・・さった」という。[やらさった(やれた・出来た)][送らさった(送れた)]など。
[えふりこぎ]格好をつける人

スミちゃんは東京へ転校し、私も東京に出てきてン十年。今ではすっかり標準語っぽく話していますが、ふるさとの言葉はいつでも胸の中にある。ふるさとで過ごしていた時の事を思い出すときは、いつもその言葉と共にある。そしてふるさとに帰ったときには、すぐに南部弁で話し出すのです。