2015年9月27日

銀杏がけだものの迅さで匂ふ

ときに列車は別れの舞台となる。「木綿のハンカチーフ」という歌が好きだ。かぐや姫の「なごり雪」(イルカのカバーの方がよく耳にするけど)と比べると、はるかに「ナウ」な感じがする。「なごり雪」は1974年、「木綿のハンカチーフ」は1975年の発売なのに全然違う。あまりに有名な曲なのでぼくの好きな椎名林檎がカバーしていたりするが、やっぱりこの曲に関しては太田裕美じゃないとダメだ。かわいい。松本隆の詞がクサいのだけれども、これは唄っている太田裕美のかわいいによって許されているところがある気がする。まあ、このような内容はベタな訳だが、これが虚子の〈火の山の裾に夏帽振る別れ〉になるとギリギリのラインかな、という感じになる(個人的にはややアウトに感じてしまうが)。

祖母や母がしばしば古い名曲をかつてのスター達が順繰りに唄うような番組を観ているのを覗いていたので、「木綿のハンカチーフ」はいつしか耳に馴染みのある曲になっていたのだろう。母が曲名や作曲作詞のテロップを見ながら「やっぱ阿久悠はいいなあ」とか「これ松本隆だったのかー」とか言っていたので、松本隆の名前も知っていた。だから、俳句をはじめたばかりの中学生のころ、ぼくは「松本たかし」が「松本隆」だと思い込んでいたのだった。心の中で「やっぱり作詞家は言葉を扱うのが上手いのかなあ」などと勝手に納得していた。松本たかしの例はその名前が一般にありがちなために起こった悲劇であった。逆に俳号は珍奇なことも多い。東京三に関しては、ある時期までお笑いグループの「東京03」的なノリだと思っていたので「東京 三」だと思っていた。「東 京三」だと知って至極納得した覚えがある。

お笑い芸人で思い出したが、NHKの「俳句さく咲く!」に出演しているシシオガイさんと名前が被っているので、ぼくは危機感を抱いている。未来が危うい。伊藤伊那男さんの銀漢亭でぼくとシシオさんの名前が混乱している人がいると阪西敦子さんからタレコミがあったので、これはどうにかしなければならない。シシオさんとは一度吟行でご一緒したことがあるので、互いには知っているのだが。

そういえば住宅顕信の生涯が映画化されるという噂を聞いたのだが、本当だろうか。「住宅顕信」もちょっと危険な名前だ。正直ちょっと前まで、不動産業者かなんかの名前がついているのかと思っていた。「住宅顕信グループ」とか名づけると、急に不動産業から金融業まで手広くやっている感じになる。(固定資産でローンとか組めそう。)

どれもこれも勉強不足だったのが悪いのだけれども。それでも高校の俳句部の某先輩に〈背泳ぎの空のだんだんおそろしく〉の作者を「石田波郷だったっけ?」と尋ねられたのにはびっくりしてしまった。たぶん、彼の頭の中は以下のようになっていたのだと思う。

背泳ぎの空のだんだんおそろしく⇒波のイメージ+石田郷子⇒石田波郷

発想は、ときに罪深い。