バートルビ―症候群も露の世に
『バートルビーと仲間たち』木村榮一訳(新潮社 2008年)は、エンリーケ・ビラ=マタスの一応「小説」ということになるようである。
日本で刊行されたのは、2008年であるが、この小説が発表されたのは、2000年であるとのこと。
エンリーケ・ビラ=マタスは、1948年生まれの、スペインの小説家。
1984年に小説『詐欺』を発表、翌1985年刊行の『ポータブル文学小史』で脚光を浴びる。
その他の作品に『永遠の家』(1988年)、『奇妙な生き方』(1997年)、『垂直の旅』(1999年)などがある。
「バートルビ―」とは、メルヴィル(1819~1891)の小説『代書人バートルビ―』(1853年)に登場する「せずにすめばありがたいのですが」という台詞が口癖の「何一つしようとしない」特異な人物の名前である。
この『バートルビーと仲間たち』には、「バートルビ―症候群」という、様々な理由で作品を「書かなくなる」症例に見舞われることになった小説家・詩人が、有名・無名を問わず夥しく登場する。
そういった作者名の一部を挙げると、ヴァルザー、ソクラテス、ランボー、サリンジャー、ヴィトゲンシュタイン、メルヴィル等々。
全体の内容は、「序」と「86の断章」から成り立っていて、一応ストーリーらしきものもあり、一見したところふざけた作品のようでありながら、その実、真率な問いが裏側に潜んでいるようである。
結局のところ、本書は、「書かないこと」を多角的に考察することによって、反対に「書くこと」の意味を照射する、とでもいうのであろうか。
もう少し別の言い方をすると、「書くことの不可能性」を問題にすることで(向き合うことで)、この現在における「書くこと」の方途を探ろうというテーマが、この本には内在しているようである。