今年の夏はきちんと二足歩行する
「決めた☆決めたわノニノニ!」飼い主御中虫が箒にまたがりながら叫んでいる。
「なに?ちりとりなら向こうの部屋だよ」
「んもう、ちがうわよー掃除の話じゃないのよ箒は単なる心浮き立つ心象風景を表す小道具よ飛ばないけどね!あたし決めたのよ今年の夏は二足歩行をして暮らすわ!」
「は?」
「に・そ・く・ほ・こ・う」
「…虫は人間だよね?」
「あたりまえでしょ!」
「…じゃ、普段から二足歩行できてるんじゃないかな」
「アンタ!」虫は箒から下りるとすごんだ。
「ちょっと兎だからって、俳句ってもんをナメてんじゃないの!?俳句は文藝よ?イメージよ?比喩よ?ってこれっぽっちしか言えないあたしもどうかと思うけど!とにかく!二足歩行ってのは、イメージの話に決まってんじゃないのぉーっ!!」
「イメージ…ですか」
「そうよ!あたしはねいままでの夏はなめくじのごとくのへのへのへのへと、軟体動物化して生きていたのよ。せいぜいアイスを食べるぐらいが関の山だったわ。文字だって、『の』と『へ』しか書けなかったものよ。でも今年は違う!今年のあたしは人間として生きる!それにはまず二足歩行よ!そのためのシューズも買ったわ!さあ、かかってきなさい、夏!」
「うーん、すごい気迫だねえ。。でもたぶん、その決意は遂行されないと思うよ」
「なんでよ?」
「だってさ、もう夏だし、いま虫はベッドの上でアイスノン抱っこして蜜柑ぜリー食べてるよ…すっごくのへのへしてるよ…」
「ば、馬鹿な…!!くそぅ、来年の夏は見ておれ!!」