2011年7月28日

 

ひとりぼっちの長い思想に百合がひらく
  

  

飼い主御中虫の母が百合を持ってきた。句集出版のお祝いだという。
虫は笑顔で受け取っていたが、母親が帰るなり、
 

「けーっ!!百合だとよ!」
 

と不機嫌をあらわにした。
  

虫と母親の関係は微妙である。
それは私ノニノニにすらよくわからないものがある。
談笑しているかと思えばいきなり絶縁宣言をしたり、絶縁したと思えば一緒に買い物に行ったりしている。
しかしこの家に母親が来る時はたいてい虫は不機嫌である。
そしてその不機嫌をたいていは母親に隠すのである。
  

「なんで?」と私は一度虫に訊いてみたことがあるが無視された。
きっと虫自身にも説明のつかないなにかがあるのだろう。
    

母親の持ってきた百合の花は、それはそれは立派なものだった。
つぼみがみっつもついていた。
「百合くせえな」
と虫の弟が言った。
「母親くせえんだよ」
と虫が言った。
二人は百合を不機嫌そうに見つめていた。
  

弟はそれからしばらく家をあけた。
虫はひとりでなにか考え込んでいるようだった。
時々百合の方を見つめていた。
否、見つめているというよりにらんでいた。
  

百合の花はじわじわと開いていった。
そしてある日、百合はゴミ箱に捨てられた。
私は虫を見た。
虫はいつものように変なステップを踏みながらバナナを食べながら鼻歌を歌っていた。