狐火を使ひ古して狐です   柿本多映

〈狐火を使ひ古〉すという発想がまずあざやか。決して突飛な発想ではなく、弱弱しい狐火の姿を思えばむしろリアリティすらあるだろう。
〈て〉というつなげ方からは、使い古された狐火が〈狐〉になったとも、狐火を使い古した主体が〈狐〉であったとも読める。消耗した〈狐火〉が消えてしまったあとに〈狐です〉と名乗るようにあらわになる狐の姿は、どちらの読みにしても変わらない。狐火は消えた、狐は残った。ただそれだけのことなのだ。
〈狐火〉と〈狐〉が近いようだけれども、ここで他の動物などがでてきてしまっては、使い古すということの意味性が強くなりすぎるだろう。また、たとえば最後を「かな」や「あり」ととめてしまっては、狐全般の習性のようになってしまうだろう。
この〈狐〉に出会えた。ただそれだけのことなのだ。

第17回現代俳句大賞受賞・自選三十句(『現代俳句 7月号』現代俳句協会、2017)より。