おとといの火の消えた跡かたつむり  坪内稔典

ふらんす堂の句集「水のかたまり」(2009年)より引いた。

 

句には匂いが描かれていないのに、匂いが伝わってくるような句である。

 

火を消した後、火があった場所は湿っていることが多い。その湿りも、二日経つことで完全に乾いただろう。そこへかたつむりが来た。かたつむりの湿りが、乾いたはずの焦げ跡を濡らす。濡れた地面が再び匂いを発する。かたつむりほどの湿り気では、さほど濡れないだろうし、さほど匂わないだろうが、そこにはかすかにでも確かな匂いを感じる。

 

リズムが良い。タ行を多用することで、句に軽やかさが生まれている。描き方に湿り気がないことに、より句の少ない水分が引き立っているように思う。

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