ひらひらと硯沈めり寒の水 小川軽舟

硯という重たいものに対して、「ひらひら」という薄く軽いものを形容するオノマトペ。通常ありえない接続に、詩が生まれた。重力のかかり方が弱い水の中だから、「ひらひらと」も納得できる。確かに、硯を沈めるときって、こんな感じ。春や夏、秋ではなく「寒の水」だから、「ひらひら」と言いつつ、硯の硬さ冷たさが保たれる。寒中、さきほどまで書に向かっていた、まっすぐ正された背骨まで見えてくる。

「鷹」2014年1月号より。