逃げ水やむりよくむりよくと噛む駱駝 嵯峨根鈴子

逃げ水=陽炎の中で、なにかをえんえんと噛んでいる駱駝。駱駝の口のむにむにとした動きは、まさに「むりよくむりよく」という感じだ。「むりよく」は「無力」。逃げる、からの、無力。「現代の無力感」などとまじめに語られるとかたはらいたしという感じもするが、駱駝の口の動きを通過して提示される無力感には、風狂の気分があるからだろうか、素直にうなずくことができる。

「らんの会」の作品集『夢殻集』(2014年2月)より。