顔あげて口びるうごく桜守 山上樹実雄

「顔あげて」は、桜を仰ぐためだろう。「口びるうごく」は、桜へ何か声をかけているのだろう。何と言っているのかわからない、言葉をかけているのかすらわからない、作者との距離感が「口びるうごく」。このように、あえて作者と桜守との距離感を見せることで、むしろ桜守と桜との間に結ばれた、常人にはうかがい知ることのできない絆の深さが感じられるのである。

最小限の表現で、最大限の奥行きを引き出す・俳句の醍醐味を感じさせる句。

「南風」最新号(2014年6月号)より。