はるのやみ「むかしこのへんは海でした」  長嶋有

東京にも、かつては海だった場所が、たくさんある。教えてもらってはじめて、このあたりが海だったと気づく。むかし海だった場所だと思いながら歩いているときの、ふわふわと、わくわくとした気分が、ひらがな書きで香ってくる。春の闇は、からっぽの闇じゃなくて、命がひそんでいる闇。だから、はるのやみ=海、がスッと馴染む。

句集『春のお辞儀』(2014年4月)より。