箱庭の人に諍ひなかりけり  村重香霞

そうだ。箱庭の人には、諍いがない。素朴で懐かしい風景を再現した箱庭では、家族は、道行く人々は、平和で親しそうである。しかし、実際の人間世界でっは、諍いを避けて通ることはできない。でも、歎じているのみではなく、それもまたいいではないか、箱庭も少しさみしいわ、という風に、この句が読める日もある。淡々と「箱庭には諍いがない」ということを指摘しているのみに踏みとどまっているので、その日の私の気持ちによって、句がいろんな顔を見せてくれるのである。

第一句集『影に遅れて』(ふらんす堂 2014年4月)より。たおやかさの中に芯の通った句風がすがすがしい。