脱ぎ捨てしものに影あり後の月  青山茂根

幽霊は影をもたない。物体としてこの世に存在しているものは、すべて影を持つ。それは当たり前だけれども、自分を離れた衣類にまで影があるのかと作者は気づき、そして、人間優位の考え方にふと気づく。この服は、ただ脱いだものではない。脱ぎ捨てたものなのだ。ぞんざいに扱ったその服の影。それは少し罪悪感を持たせる。そして、月に見られているような、自分を見ている視線があるのではないかという感覚に陥るのだ。影は床に落ち、その低さから、ぐーっと空の月まで視点が引っ張られる。高低差が気持ちいい。十三夜の月は明るく照らしてくれるので、さぞ影はくっきりと、存在を主張していたのだろう。

句集『BABYLON』(2011年 ふらんす堂)より。