膨れ這い捲れ攫えり大津波  高野ムツオ

大津波の描写をするために、動詞を四つ並べた。結果、津波がまるで生き物のように、刻々と姿を変えてゆくさまが、恐ろしい躍動感をもって迫ってくる。どの動詞も、普段、波に続く「打ち寄せる」「引く」といった動詞とは、一線を画している。だから、イメージが新鮮に、リアルに広がって、恐ろしい。

この、動詞を連ねる手法、渡辺白泉が昭和10年代に、くりかえし使っている。

突撃の跳び転び起ち竦み這ふ
突撃の跳び刺し転び撃ち転ぶ
運動
凝視する仰ぐ瞬く張る瞑る
抱く摑む投げる引つぱる振る殴る
駈ける蹴る踏む立つ跨ぐ跳ぶ轉ぶ

最初の二句は、動詞の羅列で、突撃の兵士のがむしゃらな動きが表現されている。「運動」と題された三句は、はじめの句が目、二句目が手、三句目が足の動作を言っているのだと、読み終わって気がつく。動詞の羅列は、俳句という短い詩形で、ある一連の流れ・動きを表現するときに、躍動感・臨場感を持たせる効果的な手法であると同時に、主語や目的語が明示されないため、どこか象徴的な雰囲気が漂うという効果もある。

「俳句」最新刊(角川学芸出版・2011年5月号) 、特別作品21句より。他に「やがて血の音して沈む春夕日」「陽炎より手が出て握り飯摑む」「すぐ消えるされど朝の春の虹」。

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