懸崖の菊をすべつてみたきかな  鳥居三朗

絢爛な懸崖の菊を、こともあろうか「すべつてみたき」とは。しかし、その童心を照れもなくあらわにするところが快い。いわれてみれば、ちょっと滑ってみたくなるから楽しい。

突然の訃報とともに届いた第四句集『てつぺんかけたか』(木の山文庫 2015年9月)より。口語的な文体と、つきつめないで感じたままを十七音に載せてゆく、つぶやきのような俳句は、師・今井杏太郎をほうふつとさせる作風。

波に浮くひとゐて沖は晩夏かな
くしやくしやにかぶりて春の帽子かな
五月来る蛸の卵を煮てをれば
蛾の森や木の枝を踏む音のして
掴まれてまつすぐになる海鼠かな
泡吹を春風の木と思ひけり
日の暈のひろがりに鵜のよぎりたる
涼しさは天文台のわきの道
麦星や船は南に向ひたる
つぴつぴが来てゐる森の青葉かな
星空や浮びて烏瓜の花
海風に人参の葉の伸びあがる