飛ぶ蛍乳房の位置を直しけり  江渡華子

蛍火と乳房。こんな二つの素材が出会わされているのに、ちっとも色っぽくないというところが好ましい。その蛍火も、葉に止まって明滅している蛍火ではなく、闇夜にふわり
と浮かび上がった蛍火の瞬間を詠んでいるところがいい。それゆえに「乳房の位置を直しけり」という動きが、おかしみをもってじわりと効いてくる。蛍に興じる束の間の雅俗。
その俗が大胆でかつ嫌味がないというのが、この作者の一つの特徴なのだろう。子を生んだのちに詠まれた「夕焼けや乳房持ちあげ子に与へ」の乳房にも同種の存在感がある。