妻が急に化鳥のやうな蛾の話を  高山れおな

 前書きに〈帝国の端末なればくくくくと啄みゐたる鳥の名カフカ〉とあり、化鳥はふりがなに「けてう」とある。

句集『荒東雑詩』(沖積舎 平成17年)より。

 

この句集の特徴は、全ての句に前書きがあることだ。前書きとは、場所や日時やできごとを特定することに使用されることが主だが、上記の前書きはそういったものとは違う。この前書きによって、句が鮮明にわかるかといったら、そういうわけでもない。

句自体は、男の人から見ると、女の人って急に話題を変えると思っているんだろうな。と思うような句である。妻の無邪気さやあどけなさ、蛾の奇妙さが見えてくる。

この前書きによって何が見えるか。帝国の端末という不思議な面白い言葉を持ってくることで、もしかしたら、妻自体帝国の端末で、化鳥のような蛾の話をしたいのは帝国なのではと思えてくる。カフカという名の鳥がくくくくと啄むことで、蛾に西洋の雰囲気をもたせ、徐々に自分の家が侵されていく不安さも感じてくる。

 

本当に前書きが必要なのか。なくても一句として鑑賞できるのに、なぜ敢えて前書きをおくのか。その答えを探すように、様々な前書きが試されている。この句に前書きが必要なのかはわからないが、この前書きは確実に、この句に新たな意味をもたせている。