なきがらの横にビールを注いでをり  仁平勝

これほどまでに、しんみりとしたビールはあるだろうか。 隣室の広間には、親戚が集まっているだろう。人が亡くなっても、人が集まれば自然とにぎやかになるものだが、なくなった人のいる部屋は、やはり静かなのだろう。

にぎやかな部屋を出て、ビールを注いでやる。そこには形容しがたい沈黙が流れるだろうし、ビールは泡がなくなる前に口をつけるもんだが、泡もどんどん消えてゆく。

  

下五を字余りにしたことで、全体をしまりのないように仕上げている。 575におさまらないことによって、人の死への動揺が見える。

  

句集『黄金の街』(ふらんす堂 2010年)