歩き出す仔猫あらゆる知へ向けて   福田若之

ふにゃふにゃと不確かな足取り、すべてのものが珍しいと、くるくる輝く瞳。恐れを知らない仔猫の純粋な好奇心を、作者は、やさしくまなざしている。「あらゆる知」に象徴されるすべてのものが、一瞬、仔猫の瞳を通して見えて、草のそよぎも、石の上のカエルも、みんなみんな、挨拶すべきものに見える。

Webサイト「週刊俳句」208号「はるのあおぞら」より。作者は1991年生まれの大学生。掲句は、震災に影響を受けて書かれたと思われる10句作品「はるのあおぞら」の最後に置かれている。疑わずに知へとすすんでゆく仔猫の姿に、すなおに励まされた。

話題の漫画『進撃の巨人』(講談社)の、楽しみにしていた最新刊が出た。端的にいえば、これは、人を食べる巨人と、それに抗う人間の話だ。世界は、人を食べる巨人に支配されていて、人間たちは、彼らから身を守るため、高い壁を築いて、その内側にひっそり暮らしている。主人公の少年エレンの夢は、壁の外に出て、世界を探検すること。壁を壊して人間の領域を侵す巨人たちに抗いながら、生きるために戦うことを選ぶ、少年たちの物語だ。絶望的な世界を書いているからというわけではなく、絵が絶望的に下手なのだが、その下手さが、人を食べる巨人の造型を、とても気持ち悪いものに見せていて、人気がある。

巨人と戦うための大切なミッションの途中で、昏睡状態になってしまった主人公エレンの心に、友人アルミンは、必死で呼び掛ける。「壁から一歩外に出ればそこは地獄の世界なのに、どうしてエレンは外の世界に行きたいと思ったの?」その問いかけにはっとしたエレンは、昏睡から覚めて、こう答えた。「どうしてだって?そんなの、決まってんだろ・・・オレが!!この世に生まれたからだ!!」

知りたいという気持ちは、もしかしたら、いちばん原初的で、いちばん純粋な感情かもしれない。そこには、危険を顧みるとか、打算を挟み込むとか、そういうはからいや恐れがない。ただ、生まれたから、知りたい。理由なんてそんなものかもしれない。だから、この仔猫が、尊い。

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