夏帽を追ふとは風と競ふこと   高柳克弘

ワンテンポおいて、あぁ、本当にそうだ。と思う句である。句自体は分かりやすい言葉で、視線の流れも上五から下五へまっすぐ流れている。わかりやすいのだが、より実感を得るのは、ワンテンポ遅れてからなのだ。
一番面白いのは、作者の立ち位置や時間が曖昧なところにある。帽子を追っているのが作者かもしれないし、帽子を追っている人を見ている人が作者かもしれない。それは、今、追っているのかもしれないし、過去追っていたその場面を思い出したのかもしれない。句の分かりやすさと、作者という存在の曖昧さのギャップが面白い句だ。

詩客9月9日号「月とペン」より。