秋の蛇すこし吃音夢の兄   下山田禮子

句集『風の円柱』(邑書林 平成21年)より引いた。この句のすぐ後に

顔知らぬ兄の忌日や冬深し

とあることから、作者が兄のことを知らないこと、「兄」とよばれる人物が鬼籍の人であることがわかり、その人を夢に見るということにより、せつなくなる。しかし、その事実を無視しても、描かれている「兄」の不安定さが見て取れる。吃音なのが兄なのか、蛇なのか分かりづらいが、だからこそ不安定さを感じる。夢に見る蛇も、不吉なものとして扱われたり、金運などの幸運をイメージさせたりと、あまり安定したものではない。なぜ、今夢にみたのか。作者はじっと、自分の深層心理について考えるのだろう。