寒の耳ひとつひとつが右の耳  中村光三郎

句集『春の距離』(らんの会 2011年)

作者は人の列の右側を過ぎているのだろう。ひとりひとりに耳があることを、冷えて赤くなる耳を見て実感する。こんなに、寒いのに、何に並んでいるのだろうと思いながら横を過ぎる。
有楽町駅の前に宝くじ売り場があって、この時期はよく列ができている。よくその横を通るのだが、私自身寒さに縮こまってあまりその列を見ない。この句を読んで、あの列にもひとつひとつの耳があるのだと思い出す。私が過ぎるのは左側だから、ひとつひとつは左の耳なのだな。と思ったりして、すこし楽しくなる。