さくらんぼ目をぱつちりと開けて食む  小野あらた

さくらんぼを食べるときのルールはない。ないけれど、なんとなく、「目をぱつちりと開けて食」べるのがいいような気がする。さくらんぼのつぶらな果実が、ぱっちりと開かれた瞳と、かわいらしく重なるからだろう。目もつぶら、さくらんぼもつぶら。実際には目をぱっちり開ける必要なんてない。そこのところの、この行為の無意味さが、食べているひとの表情に、ただのかわいさだけでなく、ちょっとおかしみを加えている。

『俳コレ』(邑書林、2011年12月)より。小野あらた100句から、ほかにいくつか。徹底してトリビアルなものを詠みつづける作者のブレなさに感動する。そして、トリビアルなことを俳句にすることの意味は、無意味さを追求することではなくて、トリビアルなものに着目することそのものがかなしみを帯びてくる、そこにあるような気がする。

色薄き家の並べる秋の川
白壁にきらきら石鹸玉の跡
種なしの葡萄の小さき種を噛む
順番に初日の当たる団地かな
返り花新体操の濃き化粧