大木にしてみんなみに片紅葉  松本たかし

大きな落葉樹の、南側だけが、少し紅葉をはじめた、というのだろう。秋という季節や、それを代表する紅葉は、美しいながらに寂しい印象を読者に与えるが、この句は「大木」というひろやかさ、「みんなみ」という明るさが、句全体をおおらかにしている。いくたびもめぐってくる大きな季節の運航が、さだかに感じられる一句だ。風に身をゆだねようという、そんなおおらかな気持ちになってくる。

岸本尚毅著『ホトトギス雑詠選集100句鑑賞 秋』(ふらんす堂)、岸本氏が選句をして鑑賞を書いた100句の中より。選ばれた句には、名句もあれば、名前も知らないような俳人の句もある。「虚子選の自由闊達さと間口の広さが理解されるように、出来るだけ多様な作者・作品を取り上げることに努めました」とは、著者岸本氏の解説。
この本についても、ふらんす堂の書評ブログ「みづいろの窓」に、記事を書きました。「選」ブームだね、という角度から。