春雨に降りかこまるる男かな  永田耕衣

囲んでくれるものがあるのに、孤独感が増しているように見えるのは、春雨のせいだろうか。結局男はひとりであることを実感するのだ。春雨は男にだけ降るわけではないだろうが、パラレルワールドにいるような気がして、この世にたった一人なのではないかと錯覚する。傘をさしても意味のないくらい、春の雨は細かい。他の雨より囲まれていることを実感するのだろう。

『永田耕衣俳句集成 而今』(沖積舎 昭和61年)より。