蛇穴を出づるほど世に蛇がゐず  宮坂静生

思わず笑ってしまい、笑ってしまってから「うーん」と思う。前書きに「このごろ「蛇穴を出づ」句多し」とある。「蛇穴を出づ」の句を見て納得いかないことが続いたのだろう。確かに、作者が見た句の「蛇穴を出づ」は、実際に見て詠まれた句じゃないのかもしれない。けれどそこを指摘するのであれば、この句の季語だって、別に蛇を見たから詠まれた句ではない。だから、作者は別に大きな問題としたいのではないのだと思う。純粋にそう思い、呟いたというだけなのだろう。この句を読んで何かを憂うわけではないけど、すんなり前を横切れない句だ。

句集『宙』(角川書店 2005年)より。