桃咲いて骨光りあう土の中  神野紗希

 地上の明るい春の陽気に誘われたかのように、地下の暗闇の中では死者たちの骨が交歓している。中七の意表を突く表現は、作者の感性の特異さを物語る。「骨光りあう土の中」とだけ聞くと、ぞっとするような不気味さを覚えるが、「桃咲いて」の明るさの効果で、一句全体にどこかあっけらかんとした味わいが生まれている。

 黄泉の国から逃げ帰ってきた伊邪那岐命(いざなぎのみこと)は、黄泉比良坂(よもつひらさか)で桃の実を投げて追手を撃退する。その『古事記』の有名なくだりが、作者の無意識に遠く影響を与えているのかもしれない。

 地上だけでなく、地下の世界にまで、作者の想像力は及んでいる。